沢田 ふじ子
雨女

泥鰌売りで細々と暮らす岩三郎は、長屋の木戸門で雨に打たれている若い女を助けた。

事情を問うと、菊と名乗る女は「何も聞かずに置いてほしい」と。ある日、仕事から帰るとお菊がいない。

仏壇に置かれた彼女の遺留品を開けると、十数年前、仕事先の美濃で忽然と消息を絶った父親の愛用していた煙草入れが――心温まる奇談を描く表題作ほか5編を収めた時代短編集。


諸田 玲子
お鳥見女房

幕府御鳥見役として隠密を務める矢島家の、女房・珠世が主人公。

その矢島の家に、5人の子を抱えた浪人者が身を寄せる。

さらに、その浪人を仇と狙う娘を次男が連れて来て、少禄の狭い家に7人の居候が転がり込む。

当主が隠密の仕事で旅立ち留守にした1年間、一家に襲いかかる子供の誘拐や、父親の恋愛など様々な出来事を、珠世の機知と情愛で解決していく。

ほのぼのとした心温まる一書。

江戸から薬草の種を届けに一関の医師・丸尾修理を訪ねた日向景一郎は、彼とともに、疫病のため封鎖されたという山間の村に向かう。

そこで見たものは、水に毒を盛られ、脱出を図る者は斬り殺される村人の姿だった。隠し金山を守るため、藩は村人を皆殺しにしようとしていたのだ。

そして江戸。ある日、不忍池に夥しい数の魚が浮き、江戸市民の水源である井の頭池に毒がまかれる……独特の力強い筆致で、迫力ある剣豪時代小説として描きあげられている。


逢坂 剛
重蔵始末

蝦夷地探検家として知られる近藤重蔵の、火付盗賊改方与力を務めた破天荒な青春時代を描く。

同心の橋場余一郎や配下の密偵・根岸団平を使い、機知と独自の戦略で難事件を次々と解決していく。

第1話「赤い鞭」は、相撲取り・鬼ケ嶽をつけねらう盗賊・黒猿一味を捕縛する話で、鬼ケ嶽と雷電の相撲場面は圧巻。

実在の人物や事件を巧みに織り込んだ連作5編。

幕府小普請組で無役の村椿五郎太は、西両国広小路で代書屋の内職に励む。

恋文などの代筆をしながら、「学問吟味」に合格して役に就くこと(御番入り)を目指す25歳。

願いがかなえば幼馴染みの紀乃と晴れて祝言があげられる。

そんな五郎太のもとに持ち込まれる様々な騒動。

「学成らずんば恋もままならず」と言うか言わないかはともかく、紀乃との恋の行方の引きつ引かれつが続く。

最後は“しくじり小普請”の汚名を返上し、爽快な気分にしてくれる。

しゃれと人情味にあふれる5編の連作。

軽妙な中に、少しずつ成長していく五郎太に、いつの間にか自分の姿を重ねる部分が出てくる。