江戸から薬草の種を届けに一関の医師・丸尾修理を訪ねた日向景一郎は、彼とともに、疫病のため封鎖されたという山間の村に向かう。
そこで見たものは、水に毒を盛られ、脱出を図る者は斬り殺される村人の姿だった。隠し金山を守るため、藩は村人を皆殺しにしようとしていたのだ。
そして江戸。ある日、不忍池に夥しい数の魚が浮き、江戸市民の水源である井の頭池に毒がまかれる……独特の力強い筆致で、迫力ある剣豪時代小説として描きあげられている。
く
- 宇江佐 真理
- 春風ぞ吹く
―代書屋五郎太参る
幕府小普請組で無役の村椿五郎太は、西両国広小路で代書屋の内職に励む。
恋文などの代筆をしながら、「学問吟味」に合格して役に就くこと(御番入り)を目指す25歳。
願いがかなえば幼馴染みの紀乃と晴れて祝言があげられる。
そんな五郎太のもとに持ち込まれる様々な騒動。
「学成らずんば恋もままならず」と言うか言わないかはともかく、紀乃との恋の行方の引きつ引かれつが続く。
最後は“しくじり小普請”の汚名を返上し、爽快な気分にしてくれる。
しゃれと人情味にあふれる5編の連作。
軽妙な中に、少しずつ成長していく五郎太に、いつの間にか自分の姿を重ねる部分が出てくる。